ペットで犬や猫を飼っていたり、動物園が好きだったりと、動物が好きな方は、獣医に憧れたことがあると思います。
動物のお医者さんとして、ドクタードリトルのような獣医になりたいと考えている方のために、獣医の仕事について現役の獣医師の方にインタビューしました。
今回、獣医師として20年働いており、現在ご自身で開業されている獣医の方ですので、獣医の大変さや仕事内容・向いてる人の特徴について、お話を伺う事ができました。
これから、獣医を目指そうと考えている方には、非常に興味深い内容となっております。
獣医の仕事内容と給料
仕事内容
一般的に「獣医師」というイメージからは、「動物のお医者さん」に代表されるような犬や猫の診療を行う者が目立ちますが、実は幅広い分野で活躍している資格です。
例えば畜産や酪農といった大動物では、牛や馬、豚などの診療を行うほか、一般の方に安心できる食肉を提供するための検査などを行うことも獣医師の重要な責務です。
また、製薬関連で行われる薬品の安全性の確認や新薬開発などにも活躍しています。
一方、公衆衛生関連でも獣医師のニーズは高いものがあります。
昨今豚熱や鳥インフルエンザなど家畜に関連した「家畜伝染病」に関連したニュースを目にすることがあります。
これは家畜の生命に影響するばかりか、日本の食をさせる食肉の安定供給にもかかわる重大な案件です。
健康で安全な食肉を提供するための衛生管理を行うほか、ヒトの健康にも大いにかかわる分野でも従事しています。
今世界中で感染が問題となっている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染対策に関連して獣医師が東奔西走しているのはあまり知られていません。
公衆衛生関連で働く獣医師は、主に行政機関に所属しています。
獣医師の中でもっとも従事している割合が多いのは、いわゆる伴侶動物(ペット)の診療を行う業務となります。
現在は、多様な動物種に加えそれぞれの医療の専門化や高度化が進んでおり、今もなお最新の獣医学をアップデートしていきます。
単純にペットの病気を治療するだけでなく、健康で長生きできるための生活の仕方を提案・アドバイスするための、「動物の専門家」としての責務を担っています。
給料と年収
年収は300~2000万円と、職種や技能キャリアによって大幅に変わります。
獣医の仕事のやりがい
獣医師という資格保有者全体でみると、単にペットの診療だけでなく家畜の健康や微生物関連、そして公衆衛生分野、新薬開発など、動物に関連するものというよりもっと広分野で「生命科学」全般に携わることができる点が最大の強みであり、やりがいになるかと思います。
私個人は小動物臨床医なので、犬や猫と日頃から多く接しています。
当たり前といわれればそれまでですが、動物が好きな人にはそれだけでもやりがいにつながるのではないかと思います。
けがや病気で苦しんでいる動物を自身あるいは自身を含めたチームプレーで改善していくプロセスは、難しい症例ほど達成感につながります。
また、動物にばかり目が行きがちですが、飼い主さんは人間ですので、動物を通じて飼い主さんたちの心身の安寧に貢献できるという点も誇らしく感じる部分であります。
つまり、どの分野においても最終的に動物および人間の健康と安全全般を下支えして貢献しているという自負を持って日々対応しています。
それが我々のやりがいであると感じております。
獣医の仕事で辛いこと
つらいことと感じるかどうかは本人によるところとなりますが、基本的に重労働である点が挙げられます。
大動物や動物園の展示動物などは、対象動物が人間より大きいことがほとんどですので、力仕事となります。
またいわゆる「3K」と呼ばれる「きつい、汚い、危険」の要素を持ち合わせていることが多いと考えておく必要があるのではと思います。
言葉が通じない動物を相手にしているため、動物の一挙手一投足を瞬時に判断し、対象動物をケガさせない、対象動物の所有者(飼い主を含む)をケガさせない、自分自身や関係者が負傷してはいけませんので、そういう意味では非常に体力的にきつい仕事といえるのではないでしょうか。
また、病気やけがは24時間起こりうるものです。
そのため、自分自身の自由が利きづらい職種であることを認識しておかなくてはなりません。
時間外に仕事をすることも決して珍しくないと思います。
また、当たり前ですが常に最新の獣医療に関する情報を入手していかなくてはなりませんので、卒後も積極的に勉強していく姿勢が問われます。
皆さんが想像している獣医師のイメージよりかなりハードワークであると想定されるとよいのではないかと思います。
獣医へ向いている人の特徴3つ
- 動物が好きな人
- 知的探求心が旺盛な人
- 人の役に立ち社会に貢献したい人
①動物が好きな人
言わずもがなですが、獣医師は何らかの形で動物と接する仕事です。
動物に対して強い恐怖心や愛情がなければ務まりません。
獣医師を志す人はたいてい動物が好きであるためにこの職業を目指していると思いますので、この条件は最低ラインだと思います。
ただ、重要なのは獣医師の仕事の中で遭遇するのは、動物の死というものです。
これは例えば動物を診療する職種に従事している場合は必然的に目の当たりにします。
なかには安楽死という選択をせざるを得ないこともあるかもしれません。
一方で食肉関連に従事する獣医師であれば、さらに死というものと大きく向き合うこととなります。
獣医師の重要な責務の中には対象となる動物を不安や苦痛を伴うことなく死に至らしめることも含まれます。
食肉に供するということは、肥育した動物を動物福祉の観点から過度な不安や苦痛を起こさないよう安全に死を迎えるプロセスが必須です。
そのため、生命とは何かという問題が常にかかわってきます。
そのような中で命の大切さを自身が十分に理解し、そしてそれを一般の方にも正しく理解していただくこと、これが獣医師の役目の一つであると考えています。
②知的探求心が旺盛な人
特に獣医師になってから思うのは、資格を取得してからも勉強量は相変わらず多いということです。
大学の獣医学教育では、獣医師の幅広い職種がある中のごくごく一部を学びます。
つまり、実際に獣医師が獣医師としての知識や技能を発揮するためには、卒後もその知識習得や技能を研鑽しなければならないということです。
そのため、学会や勉強会などへの積極的な参加を必要とします。
そこで得た最新の知見がその後の獣医療に還元されるわけですので、知的探求心をもって仕事に臨んでいます。
勉強しなければいけないという差し迫った感覚というより、普段仕事をしていると不明点や、アイデアがたくさん浮かんでくるものです。
それに対してどのような治療を行えばもっとどうぶつを救うことができるのかというイメージが付きやすくなります。
普段から疑問を持ちそれに対してどのように対策をしていくか、機転を利かせながら仕事を行うのが獣医師なのかなと思っております。
③人の役に立ち社会に貢献したい人
獣医師は主に医療業なのですが、別の見方をすれば医療もサービスの一つと捉えることができます。
サービスとは何か?と考えると最終的には利用する人、そして自身の仕事を通じて地域や世界中の方々が安心して健康な生活が送れることが究極的な目標となっているのではないかと考えています。
つまり、獣医師とは小動物、大動物、畜産や酪農、公衆衛生関連のどの分野においても、それらに関係している人に対して幸福や安心を提供することで貢献しているという風にとらえることができるのではないでしょうか。
医療に関してはとりわけ自己犠牲の要素が必要な部分だと考えます。
例えば、診療した犬や猫が元気になっていくのを見るのは我々にとって心休まるひと時です。
その時必ずしも犬や猫は我々に対して感謝することばかりではなく、逆に「なんか痛いことをした人」と認識されてしまうことも残念ながらあります。
ただ、それでも我々は健康を取り戻すお手伝いができたとうれしくなるわけです。
獣医へ向いていない人の特徴3つ
- 動物に対し苦手意識のある人あるいはその体質がある人
- 自由時間をしっかり確保したい人
- 人とのコミュニケーションが取れない人
①動物に対し苦手意識のある人あるいはその体質がある人
獣医師という職業柄、動物との縁は切ることができません。
動物に対し苦手意識のある人は少なくとも向いていないといえそうです。
個人的な経験ですが、小さいころ体重50キロはあると思われる超大型犬に近くで吠えられたことがあり、小学校入学までは犬が苦手でした。
今は全くそんなことはありませんが、過去に動物と接していた時に遭遇した出来事がトラウマとなっている方もいるかもしれません。
克服できる部分もありますので、必ずしも向いていないと断言はできませんし職種によっては影響が出ない場合もあります。
また、身体的特徴や体質、例えば動物の被毛ややフケに対してアレルギーを持っている人がいます。
動物が好きでも自身の健康に影響を及ぼすことがあるのは、辛いことと思います。
こちらに対しても職種の選択やアレルギーに関連しない分野で活躍することができますので、門戸が完全に閉ざされるということではありません。
②自由時間をしっかり確保したい人
獣医師の中でも、臨床と呼ばれる分野に従事する場合はなかなか休暇が取りづらいのが現状です。
勤務時間が決まっていても、時間外診療や休日に業務が入ることも珍しくありません。
特に診療サービスを生業とする場合は、とりわけ土日や祝日といった一般の方がお休みの日こそ繁忙期となりますので、そのあたりは予め承知しておく必要があります。
勤務先の規模や職種にもよりますが、まとまった休みを取ることが難しいことがあるかもしれません。
製薬会社など大きな企業に勤める場合を除き、一般の動物病院はいわゆる中小企業で、軒並み人材が常に不足している状況です。
そのため、他のスタッフさんとのバランスをとりながら休暇の配分が行われることが多いです。
急患等によって残業が生じることもありますので、生活が不規則になることも考えられます。
そういう意味では労働時間が長くなりがちな職業といえるかもしれません。
とにかく自身の体調管理に気を付けながら任務を全うできるよう努めています。
③人とのコミュニケーションが取れない人
動物が好きでこの職種に就く人が多いのが現状です。
ここで多く見過ごされがちになる点として、その動物を介して最終的に接する必要があるのは人間であるということです。
「人付き合いは面倒だけど動物が好きだから」という理由で仮にこの仕事に就いた場合、かなり苦労することが予想されます。
特に臨床の現場では、動物の異常について少なくとも飼い主さんからお話を聴取することが必須であり、また治療方針をきちんと説明するのも重大な責務の一つです。
大事なことは、動物を通じて人の健康や福祉に貢献する職業であることなのです。
言葉を発せない動物の代弁者になり、円滑に獣医療を進めていくためには、飼い主さんとのコミュニケーションがとても重要であると日々診療をして感じております。
これは小動物診療に限らず他の獣医師の資格を持って従事する職種であっても同様と考えております。
獣医へ就職する方法
獣医師になるには?
獣医師は国家資格です。
獣医師になるためには、獣医系大学で必要な6か年のカリキュラムを修了し獣医師国家試験受験資格を習得します。
そのうえで国家試験に臨み、合格すれば晴れて獣医師となることができます。
獣医師国家試験は例年2月末に行われ、合格率はおおよそ80~90%となっています。
先輩からのアドバイス
獣医師という資格をもった人たちは、皆さんが想像する以上に幅広い分野で活躍しています。
華やかなイメージを持たれますが、重労働で過酷な側面も持っています。
それでも我々獣医師はこの仕事に誇りを持っています。
なぜなら、命というものに対し常に真摯に接し、ひいては世の中の生命科学の技術発展に貢献し、一方で消費者に対して安全な食肉や乳製品を提供することを通じ、人々に安全と信頼を提供することに歓びを得ているからなのです。
動物のスペシャリストとして日々自己研鑽しながら、今日も大切な命と向き合っています。